生殖・内分泌

 不妊・不育ばかりでなく、思春期から更年期に至るまでの内分泌異常、月経痛・子宮内膜症を対象とした管理など、幅広く診療しています。その他、不妊相談の窓口(電話回線:匿名でも可)、メールによるお問合せもありますので、些細なことでも結構です、お気軽にご連絡下さい。
当グループの特徴は、内分泌・東洋医学など基礎医学で裏打ちされ、不妊の先端的検査や治療、内視鏡検査や手術といった多岐にわたる分野の知識と技術を取り入れていることです。バランスのよい診療を行っている日本でもまれな施設と思っています。不妊内分泌に限らず、産婦人科を目指す医療関係者の方にも、様々な分野の基礎から臨床まで短期間で習得でき、きっとお役にたてると考えています。医療関係者の問合せも大歓迎です。
以下は、簡単に当院での診療内容を紹介します。

① 内分泌

不正性器出血、月経不順、月経痛などをきっかけに、内分泌異常(ホルモン分泌の異常)や子宮内膜症・子宮筋腫などがわかる場合があります。ホルモン検査とその治療、また、子宮内膜症や子宮筋腫・初期の子宮体癌の薬物療法を積極的に行っています。若い方では、将来の妊孕性に極力影響しないようなやさしい治療を心がけています。
内分泌は、良性腫瘍・悪性腫瘍・女性ヘルスケア・周産期医学を深く理解する上で必須の学問となっています。しかし、近年、生殖医療指導医の中でも内分泌専門あるいは教育できる医師は少なくなりました。当科には内分泌異常に関しても知識の深い医師がおり、診療・教育を担当できるのも強みになっています。

② 不妊症

 不妊症とは通常の性生活を行っても1年以上妊娠しない場合をいいます。生殖に関する異常がなくても、1回の性交で妊娠する確率は20%程しかなく、6ヶ月に1回妊娠のチャンスが回ってくるといわれています。近年の精液中運動精子の減少,子宮内膜症・性器感染症の増加や晩婚化という背景から、不妊に悩むご夫婦は増える一方です。6組に1組の夫婦が不妊検査や治療を受けた事があると言われています。
排卵(卵子)・精液(精子)・卵管(受精)・着床の4つのどこかに異常があると不妊の原因となります。それぞれの原因を2-3ヶ月で調べ、同時並行で治療も進めていきます。内分泌異常には薬物療法やダイエット、排卵障害には排卵を促す薬、精子の数が少ない人には漢方療法、卵管異常には子宮卵管造影や必要に応じて内視鏡手術(卵管形成術・通水)などで治療します。

不妊検査 月経周期に併せて検査をします

 不妊症の原因は1つではなく、いくつかの原因が複雑に絡み合っています。それぞれの原因を適切かつ迅速に治療し、少しでも妊娠の確率が上がるようにせねばなりません。体外受精・顕微授精・胚凍結とその移植(いわゆるART)は不妊治療の柱となり、当科でも28年前から行っています。
2017年の日本の統計では、実に出生児の16人に1人がARTによって妊娠しています。ここ10年で、ART周期数が世界トップクラスに躍り出ました。しかし、一方で内分泌異常はもちろん、不妊原因になる子宮内膜症・卵巣腫瘍・子宮の良性疾患・性感染症・東洋医学的異常(漢方・生活指導)・初期の子宮体癌に対する検査や治療はおろそかにされ、ART偏重による弊害も出てきています。
このように、不妊症では、ARTばかりでなく、内分泌・感染症・腫瘍・東洋医学・画像診断・内視鏡などのあらゆる観点から、不妊症や内分泌異常をとらえ、最新かつ最善の方法を選ぶよう努力しています。また、ご夫婦のご希望も確認しながら、タイミング療法、人工授精、体外受精(顕微授精)による治療を選択しています。

③ 内視鏡(子宮鏡・卵管鏡・腹腔鏡)

内視鏡検査および手術にも力を入れ、当科には腹腔鏡技術認定医が3名、日本でもまだ少ない子宮鏡手術技術認定医も1名(重複)おります。外来での子宮鏡手術を選択できる場合もあり、その際は身体的・時間的・経済的負担が軽減されています。

1)子宮鏡とは

子宮鏡とは、腟・子宮の入口からスコープを挿入し、子宮内の観察や腫瘍の切除を行うものです。最近のスコープは直径2-3mmと非常に細く、出産を経験していない方でも観察だけならほとんど痛みはありません。
外来では、年間200件以上の子宮鏡検査と70件程度の日帰り子宮鏡手術を行っています。子宮内膜ポリープ切除・子宮鏡下の選択的卵管形成術・内膜癒着剥離・筋腫核出術など様々な手術を行えるようになりました。痛みもほとんどありません。
入院(3-4日間)による子宮鏡下筋腫摘出も行っています。通常、腹腔鏡下手術ではおなかに小さな創が残りますが、子宮鏡下手術では腹部の創はありません。そして、最大のメリットは、術後の痛みがなく、術中の出血が少ないため、身体の負担が最も少ない手術ということです。子宮の内側に発生した筋腫のほとんどは子宮鏡下に切除可能(最大直径7cmまで、突出率10%)で、月経痛や月経過多の症状が術後速やかに改善します。

2)子宮鏡の対象疾患

(1)内膜ポリープ(子宮鏡下内膜ポリープ切除)

不正出血や不妊症の原因になります。内膜ポリープ(短い方の直径1cm以下)は外来通院のみで切除可能です。胃のポリープなどと同じで、ループ状の糸(スネア)での切除、硬性鏡(直径3-4mmの鉄製の筒)での茎の太いポリープ切除も可能になりました。

(2)卵管閉塞(卵管口から3-4cmまでの閉塞)

子宮鏡で子宮内を覗きながら、卵管の入口に卵管カテーテルを1-5cm挿入して、卵管内から腹腔内へ水をとおす治療です。子宮卵管造影で卵管閉塞と診断された方の70%は、この方法で卵管を通すことができるようになります。FTカテーテルとほぼ妊娠成績が変わらず、この方法をまず行っています。

(3)粘膜下筋腫(子宮の内側に突出した筋腫)

通常は入院して子宮頸管(子宮の入口)を十分開く処置をして、子宮鏡で筋腫だけをくりぬく手術です。当院の方法では、正常な子宮内膜や筋層を損傷することがほとんどありません。手術後の妊娠率も60-70%と高く、生理痛や過多月経もほぼなくなります。

(4)子宮内膜癒着(アッシャーマン症候群)

子宮内膜が癒着し、月経が止まったり、月経量が少なくなり、不妊症になる病気です。癒着が軽ければ日帰り手術が可能ですが、重症の場合は2-3泊の入院で子宮鏡下に剥離できます。

(5)不妊症

不妊原因になる小さな筋腫・内膜癒着・子宮内膜ポリープの診断、着床期内膜の診断に子宮鏡検査を利用しています。不妊症の方の中には、子宮鏡検査だけで妊娠する患者さんもおられ、子宮・卵管内を洗浄するだけで妊娠につながる場合もあるようです。

3)卵管鏡(FTカテーテル:卵管口から4cm以上離れた部分の閉塞)

卵管口(子宮側の入口)から4cm以上離れた部分の閉塞に有効で、通常は腹腔鏡と併用して行います。卵管の強い癒着や閉塞を、カテーテル先端の風船(バルーン)が膨らませて解除します。

4)腹腔鏡

適応疾患としては、卵管性不妊・子宮筋腫・子宮内膜症・多嚢胞性卵巣症候群などがあります。

(1)卵管采閉塞(卵管水腫)

卵管上皮の細胞が障害を受けておらず、卵管周囲の癒着が軽度であれば、腹腔鏡手術(癒着剥離と卵管形成術)だけで妊娠する可能性が高くなります。

(2)子宮筋腫(大きな粘膜下筋腫、子宮内腔が変形するような筋腫は妊娠しにくい)

子宮筋腫以外の不妊原因がなければ、上記のような筋腫を核出することで50-70%の術後妊娠率が期待できます。

(3)子宮内膜症

子宮内膜症では、卵管・卵巣周囲の癒着で卵子がうまくピックアップできない、あるいは、内膜症組織から放出される炎症性物質が妊娠を直接妨げると考えられています。
癒着剥離と内膜症組織の除去を腹腔鏡で行うことにより、一時的な妊娠率のアップは期待できます。しかし、その妊娠の多くは、術後半年から1年以内にしか成立しません。そもそも、子宮内膜症は月経のある限り進行し続ける病気です。温存手術(子宮や卵巣を残す手術)で完全に内膜症病変を除去することは困難で、必ず、残った内膜症組織が存在し術後も持続的に内膜症が悪化します。術後しばらくすると、妊娠を妨げる炎症性物質の放出がされ、卵巣周囲の癒着が進行し、そして、術後2年ほど経ちますと自然妊娠することがほとんどなくなります。体外受精などの方法でしか妊娠ができなくなります。また、卵巣に発生する子宮内膜症(チョコレート嚢胞)の核出術(悪い部分だけ切除し正常部分を残す)では、平均15%程度の卵巣の正常部分をロスすることもわかってきています。
すなわち、未婚の方や既婚の方でもこれから妊娠を希望する場合には、手術に踏み切る時期を慎重に考えなければなりません。月経痛がひどい・悪性腫瘍が疑われるなど、手術を優先する状況があれば、手術を選択することも必要になります。

(4)多嚢胞性卵巣症候群

排卵障害のなかに、多嚢胞性卵巣症候群という病気があります。排卵がおこらず、卵巣内に多数の小卵胞ができます。最近、増加傾向にあり、卵巣内の男性ホルモン過剰、無排卵(月経不順)、超音波による多嚢胞状卵巣の所見を示す特徴があります。思春期の早い時期から月経不順がある人に多く、将来的に子宮体癌・糖尿病・心血管系障害を併発する頻度も高いと言われています。併発症の予防のために、若いころから周期的に月経を起こすなどの治療を積極的に行う必要があります。
妊娠するためには、経口の排卵誘発剤を、経口剤で効果のない人には注射による排卵誘発剤を使用します。注射が効きすぎて強い副作用が出る場合には、腹腔鏡下に卵巣を焼灼し排卵を誘発する方法も選択できます。

④ 不育症

 妊娠をしても、流産・死産を繰り返して、子どもを持てない状態を不育症と呼んでいます。妊娠された方のうち、4.2%が不育症と診断されており決して珍しい事ではありません。流産・死産を繰り返す事で気持ちが沈んでうつ状態になる方も少なくありません。しかし、不育症と診断されても85%以上の方が出産されています。不育症の原因を調べる検査や治療を当科でも実施しています。抗リン脂質抗体症候群などの血液凝固異常、子宮形態異常、内分泌異常等の検査を実施しています。また、必要に応じて胎児染色体や両親の染色体検査をすることもあります。

不育症のリスク因子

⑤ 悪性腫瘍患者に対する妊孕性温存

近年、がんに対する治療法が進歩し、がんサバイバーが増えてきています。抗癌剤や放射線治療後に、精巣あるいは卵巣機能が廃絶(精子あるいは卵子が全くなくなってしまう)または低下し自然に妊娠する事が難しくなることもあります。
当科ではこうしたがん治療をうける男性患者様を対象に、精子凍結を行っています。凍結精子による妊娠・出産例も経験しています。がんの治療を遅らせる事なく妊孕性温存ができるよう迅速に対応したいと思いますので、ご希望の際は当科外来へご連絡下さい。
女性患者様に対する卵子、受精卵凍結については現時点では対応しておりません。現在準備中です。また、最近卵巣組織の凍結や移植を行っている施設もありますが、こちらも現在実施しておりません。将来的には行う予定で準備を進めたいと考えています。

⑥ 漢方療法

1998年から随証療法を本格化させ、2014年には歯科・医科合同で漢方診療センターを設立し、他科と連携しながら漢方の診療・教育にもあたっています。当院には漢方専門医が3名おり、漢方専門外来(産婦人科・内科・麻酔科・歯科)もあり、漢方単独の治療にも対応しています。

不妊相談窓口 ※鹿児島県 不妊専門相談支援推進研究

電話相談   対応:助産師、産婦人科医師 / 毎週月曜日・金曜日 午後3時から午後5時 / 099-275-6839(専用電話)

メール相談  対応:産婦人科医師 / 随時 /