婦人科腫瘍

腫瘍グループでは広く婦人科腫瘍の治療に当たっています。
子宮癌、卵巣癌などの悪性腫瘍だけでなく、子宮筋腫、卵巣腫瘍、などの良性疾患も対象としています。
良性腫瘍に対しては、腹腔鏡や子宮鏡などの鏡視下手術にも積極的に取り組んでいます。

  1. 子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、子宮肉腫、外陰癌、絨毛癌膣癌、外陰癌などの悪性腫瘍に対して手術、化学療法(抗がん剤治療)、放射線療法などの治療を幅広く行っております。日々、病む人の気持ちを大切に考え患者さんのQOLを考慮し診療を行っております。関連病院と連携しながら、3次医療機関として全身状態の悪い方、成人病や精神疾患を患ったリスクが高い方の治療も担い、南九州全域より受け入れています。
  2. 複数の医師で治療にあたり、がん治療認定医、婦人科腫瘍専門医を中心に各種取り扱い規約、各種ガイドラインなどの標準治療に基づいて治療を行っています。治療に際しては、患者さんへの説明を丁寧に行った上で、同意を得て行っています。
  3. 予定された手術の場合は、手術前に医局員全員参加のカンファレンスで画像閲覧しながら、手術の適応、方法などについて話し合い、多数の意見をふまえた上で、方針を決定しています。
  4. 年間手術件数は約400例であり、技術に裏打ちされた確実な手術を行い、傷をなるべく目立たない様に配慮しております。化学療法や放射線療法も積極的に行い、同意が得られれば多施設共同研究に参加し、更に定期的に関連施設と共に勉強会や検討会を開催しております。
  5. 研究面では、子宮頸癌の原因であるヒトパピローマウイルスの基礎研究や縮小手術に関する研究を行っております。学会での発表も積極的に行っています。
  6. 子宮筋腫、卵巣腫瘍、子宮内膜症、チョコレートのう胞などの良性腫瘍だけでなく、子宮頸癌や子宮体癌などの悪性腫瘍に対しても日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医を中心に積極的に腹腔鏡手術を行っております。腹腔鏡手術は小さな傷で手術できますので、傷が目立たないだけでなく、体の負担が少なく、入院期間は短縮し、早期に社会復帰できるメリットがあります。腹腔鏡での手術件数は年々増加し、婦人科手術の5割弱を占めるに至っております。

内視鏡手術

1.腹腔鏡手術とは?

腹腔鏡は内視鏡の一種で、お臍に内視鏡カメラを挿入してお腹を観察するためのものです。
お腹を観察するためにはお腹を膨らませることが必要ですが、吊り上げ法と気腹法という方法があります。
当科では主に気腹法といって二酸化炭素のガスをお腹の中に入れる方法で行っています。
実際には、お腹に3~4か所5~12mmの小さな穴をあけて行う手術です。
手術の種類によって穴の位置、個数は異なります。
腹腔鏡下手術が適応とされる疾患は次第に広まってきています。

2.腹腔鏡下手術のメリット

・手術の傷あとが目立たないため、美容的です。
・傷が小さいため、術後の痛みが従来の手術と比べて非常に軽く済みます。手術の翌日から歩行が可能です。
・手術後の癒着が少なく、腸閉塞等の合併症が開腹手術に比べて少ないと言われています。
・早く日常生活に戻れるため、入院日数が短く(術後3~5日間)、社会復帰が早くできます。

しかし、腹腔鏡手術はいくらメリットがあると言っても、手術であることに変わりがありません。お腹を切る手術と同じように麻酔が必要です。また、通常の手術同様の危険(出血や麻酔による合併症など)もあり、場合によっては、それらを回避するために途中で開腹手術に移行することもあります。

当科では、良性疾患だけでなく、悪性腫瘍に対する手術も積極的に腹腔鏡下に手術しております。現在施行している術式は以下のとおりです。

・腹腔鏡下広汎子宮全摘出術
・腹腔鏡下子宮体癌手術
・腹腔鏡下子宮筋腫核出術
・腹腔鏡下子宮全摘出術
・腹腔鏡下卵巣腫瘍核出術
・腹腔鏡下子宮附属器切除術
・腹腔鏡下子宮内膜症病巣切除術
・腹腔鏡下癒着剥離術
・腹腔鏡下卵巣焼灼術
・不妊症に対する腹腔内観察術

3.腹腔鏡下手術の対象となる疾患

子宮筋腫は、子宮筋層を構成する筋肉から発生する良性腫瘍で、成人女性の4~5人に1人が持っていると言われ、頻度の高い疾患ですが、全ての子宮筋腫が治療の対象になるわけではありません。
しかし、貧血、腹部の腫瘤感、頻尿感等の症状が生じてきた方や、症状が無くても子宮筋腫が不妊症の原因となっている可能性がある方などは治療の対象になります。
治療方法としては、薬物による治療、腹腔鏡下手術、子宮鏡下手術、および開腹手術などがあります。
子宮筋腫に対する腹腔鏡手術には、筋腫だけを摘出する子宮筋腫核出術と、子宮筋腫を子宮ごと摘出する腹腔鏡下子宮全摘出術があります。

1) 腹腔鏡下子宮筋腫核出術

図(12.9.47)

 不妊症の方で、筋腫切除が妊娠率の向上につながる可能性がある場合や、子宮の温存を希望される患者さまが適応になります。
当科では、核出術後にめでたく妊娠され分娩にいたる症例を数多く経験しております。その際、分娩方法は通常、帝王切開が選択されます。
子宮筋腫の核出術は出血、および止血の観点からすると、子宮全摘よりはるかにリスクの高い手術です。

2) 腹腔鏡補助下腟式子宮全摘術、あるいは腹腔鏡下子宮全摘出術

図(3.2.48)

 妊娠の希望が無く、根治性を優先される場合には、腹腔鏡下子宮全摘出術を行います。
一般的に腹腔鏡下子宮全摘出術は他の腹腔鏡手術よりも高度の技術を要します。そのために、頻度は極めて稀ですが子宮全摘出に特有の合併症の報告があります。

・尿管、膀胱の損傷

術中、術後に外科的手術や処置が必要な場合があります。

・腟からの術後出血

退院後、しばらく続くことが多いです。出血量が多い場合には、止血処置のため外来へ数回来院していただくこともあります。

・腟縫合部(腟断端)の離解

ほとんどは性交渉が原因です。最近では、開腹や腟式の子宮全摘より、腹腔鏡手術のほうがやや頻度が高いのではないかと報告されています。

子宮内膜症は、月経困難症、不妊症、下腹部痛、腰痛、性交時痛、排便時痛などさまざまな症状を呈します。
一方、無症状で治療が必要ない方から、不妊症の検査中にはじめて診断される方も併せると、成人女性の10%前後が罹患しているとの報告があります。
子宮内膜症はあらゆる臓器に発生する可能性がありますが、卵巣にできる子宮内膜症(チョコレート嚢胞)が最も多く、次いで子宮にできる子宮腺筋症があります。内膜症が重症化すると、直腸、膀胱、尿管などにまで内膜症組織が進展し、排便痛、血尿などの原因となることもあります。
治療法としては、薬剤(消炎鎮痛剤、ピルなどのホルモン剤)による治療、および外科的治療があります。外科的治療を行う場合には、腹腔鏡下手術が第一選択となります。
当科では主に卵巣や腹膜の子宮内膜症を切除しております。子宮内膜症で問題となるのが骨盤内の癒着です。癒着が強固な場合、手術操作によって腸管穿孔を引き起こす可能性がありますが、消化器外科医師に応援を頂き手術を行っております。
子宮内膜症病巣は、術後に自然に経過を観察した場合、40%程度が再発するといわれています。再発予防の観点から、手術後にホルモン剤の投与などの治療の必要がある場合があります。最近、子宮内膜症による卵巣チョコレート嚢腫の悪性変化が問題となっており、子宮内膜症に対する腹腔鏡手術の適応は今後も増大していくものと思われます。
妊娠に関しては、子宮内膜症手術療法後の妊娠率は30%といわれています。しかし、妊娠の多くは、術後半年から1年以内に集中しています。そもそも子宮内膜症は月経のある限り、進行し続ける病気です。癒着・内膜症の再発など内膜症の状態は、術後も持続的に悪化するため、術後2年ほど経ちますと自然妊娠することがほとんどなくなります。すなわち、未婚の方や既婚の方でもこれから妊娠を希望する場合には、手術に踏み切る時期を慎重に考えなければなりません。それでも、なおかつ、月経痛がひどい・悪性腫瘍が疑われるなど、手術を優先する状況があれば、手術を選択することも必要になります。

卵巣は正常ではほぼ母指頭大で左右に1個ずつあります。それ以上に大きくなるのが腫瘍ですが、腫瘍といっても良性のものから悪性のものまであり、また、液体の成分が貯まって大きくなるものや筋肉のように硬いものが貯まるものまでさまざまです。
卵巣腫瘍はほとんど症状がでないことが多いです。自然軽快する機能性嚢胞から悪性疾患までありますので、腫瘍マーカー、画像診断などを必要に応じて行い、手術の適応を検討していきます。
治療としては、お薬で腫瘍を小さくすることはまず無理で、良性の腫瘍であれば腹腔鏡下手術の適応となります。悪性腫瘍の疑いがある場合には、当科では腹腔鏡手術の適応となりません。

腹腔鏡や内視鏡手術が対象となる不妊症は、卵管癒着・卵管閉塞や上記の子宮内膜症や子宮筋腫・子宮内膜ポリープなど多くあります。他の不妊原因がなければ、積極的に卵管の異常には腹腔鏡・卵管鏡・子宮鏡、子宮内膜症・内膜ポリープの除去には腹腔鏡や子宮鏡を行います。
また、卵管、排卵障害のなかで多嚢胞性卵巣症候群という病気があります。排卵がおこらず、卵巣内に多数の小卵胞ができます。
第一選択は経口の排卵誘発剤を使用しますが、腹腔鏡下に卵巣を焼灼し排卵を誘発する方法も選択できます。

100回に1回の確率で異所性妊娠がおこります。異所性妊娠の95%は卵管におこり、妊娠5~6週で性器出血や腹腔内出血による下腹部痛を起こします。多くの病院は開腹手術で、異所性妊娠を起こした側の卵管を切除してしまいます。
当院では、正確な異所性妊娠の早期診断に力を入れ、診断の困難な異所性妊娠の相談(他病院から)にも対応しています。早期に診断できれば、薬物療法だけで管理も可能です(MTX療法)。その機会を逸した卵管妊娠であっても、腹腔鏡手術法の改良で異所性妊娠をおこした卵管をほぼ100%温存することが可能になりました。温存した卵管も93%の確率で元通りになります(腹腔鏡下卵管線状切開法)。さらに、手術時に、不妊や異所性妊娠の原因になる卵巣や卵管周囲癒着の徹底的除去や修復ができる全国でも数少ない施設です。

この他に、腹腔鏡下手術は腹腔内の癒着剥離、異所性妊娠など様々な疾患に適応があります。
腹腔内の癒着剥離は高度な癒着に関しては開腹手術に移行する場合もありますが、技術的向上により、内視鏡によって行われることも増えてくるものと思われます。
一方、触覚に関しては内視鏡手術の弱点でありますので、触覚が特に必要となる高度の癒着がある場合には開腹手術が選択される場合もあります。
いずれにしても、当科へ一度来院され、相談されることを是非ともお勧めします。

子宮体癌、子宮頸癌に対する腹腔鏡手術

#1 手術創が小さく、患者さんの術後回復が早い腹腔鏡手術

■はじめに

 子宮体癌、子宮頸癌の手術は腹部を大きく切開する開腹手術(恥骨上から臍横まで縦切開)で子宮、付属器(卵巣、卵管)、リンパ節の摘出がこれまで行われてきましたが、当教室では5mmを3か所、12mmを1か所の小さな創(図1)で、体への負担が少ない腹腔鏡手術を積極的に行っています。腹腔鏡手術により侵襲を大幅に低減することが可能で、術後の痛みの軽減、入院期間の短縮、早期の社会復帰が可能となりました。また腹腔鏡を用いることにより、骨盤内の深い部分の観察も直視下に行うより確実に可能になり、出血量もごく少量です。

■子宮体癌に対する腹腔鏡下手術

【子宮体癌IA期(G1-2)に対する腹腔鏡下手術】

 当教室では、早期子宮体癌に対する「腹腔鏡下子宮体癌手術(子宮、付属器、骨盤リンパ節郭清)」を2013年6月より先進医療として行い、保険診療となった現在までに300名以上の患者さんにこの手術を行ってきた国内有数の施設です。手術創は開腹手術と比較して明らかに小さく、術後の痛みなどの患者さんの肉体的負担も軽減されます。手術時間は2時間前後で開腹手術とほぼ同等の時間で、術中出血はほとんどありません。通常、開腹手術では術後1週間から10日目に退院となりますが、腹腔鏡手術では術後4日目から6日目に退院できます。

【上記以外の子宮体癌に対する腹腔鏡下手術】

 腹腔鏡手術の保険適応とならないIB期以上や特殊型の子宮体癌に対しては、子宮、付属器、骨盤リンパ節郭清に加えて傍大動脈リンパ節郭清が必要となりますが、従来の開腹手術は創が大きく(恥骨上~剣状突起下)、術後の疼痛や腸閉塞などが問題となることがあります。当教室では2017年3月より当院倫理委員会承認のもと、自費診療にて腹腔鏡下に傍大動脈リンパ節郭清まで行う臨床試験を開始しました。この手術は2017年7月に先進医療認定され、現在は保険診療として施行しています。
手術時間は5時間弱で開腹手術とほぼ同等の時間で、術中出血量も開腹手術より明らかに少量です。術後の痛みも少なく、腸閉塞はほとんど生じず、術後4日目から6日目に退院できます。

■子宮頸癌に対する腹腔鏡下手術(腹腔鏡下広汎子宮全摘出術)

【腹腔鏡下広汎子宮全摘出術とは】

 現在、一般的に行われている手術療法は、開腹手術による子宮摘出(子宮に一部の腟と靭帯をつけて広く摘出する広汎子宮全摘出術)、骨盤リンパ節郭清であり、15~20cmの皮膚切開を必要としますが、5mmを3か所、12mmを1か所の小さな創で腹腔鏡下に手術を行う方法が腹腔鏡下広汎子宮全摘出術です。この腹腔鏡下広汎子宮全摘出術は、開腹による方法と比較して侵襲が少ないため、体への負担を大幅に減らすことができます。具体的には、開腹手術に伴う腹腔内癒着、術後腸閉塞症のリスクが軽減されると共に、出血量の軽減、術後の痛みの軽減、入院期間の短縮、早期の社会復帰が可能となります。
当科では、早期子宮頸癌に対する「腹腔鏡下広汎子宮全摘出術」を2015年10月より先進医療として行い、保険診療となった現在も積極的にかつ安全にこの手術を行っています。手術創は開腹手術と比較して明らかに小さく、術後の痛みなどの患者さんの肉体的負担も軽減されます。手術時間は約5時間で開腹手術とほぼ同等の時間で、術中出血量は開腹手術と比較して有意に少ないです。通常、開腹手術では術後10日から14日目に退院となりますが、腹腔鏡手術では術後7日目に退院となります。

【当院での腹腔鏡下広汎子宮全摘出術の治療成績】

 2018年に、早期子宮頸癌に対する鏡視下(腹腔鏡あるいはロボット)広汎子宮全摘術と従来の開腹手術の再発率・生存率を比較する大規模な研究結果が海外より出され、米国では鏡視下手術の方が、再発率が高くなり、生存率が低くなると報告されました。(LACC trial というもので、これに日本の施設は含まれておりません。)原因はまだ不明確ですが、海外の不慣れな術者の技術や術式の問題などが考えられます。
2018年4月より保険適応になった腹腔鏡下広汎子宮全摘出術は主にIB1期(腫瘍径が4cm以下)を対象にしていますが、開腹手術による国内でのIB1期の5年生存率は94.1%(2015年 日本産科婦人科学会報告)と報告されています。当院では2015年より「腹腔鏡下広汎子宮全摘出術」を施行してきましたが、3年生存率は95.7%であり開腹手術と比べても大きな予後の差は認めていません。当院としましては、これまでに培ってきた技術とデータを基に、今後も腹腔鏡下広汎子宮全摘出術を行っていきますが、開腹手術か腹腔鏡下手術(ロボット支援手術を含む)かを選択される場合には、上記のことを十分ご理解の上、選択していただきたいと思います。

ロボット手術について

当科では、婦人科疾患に対するロボット手術を積極的に行なっています。

ロボット手術とは

ロボット手術は、ハサミなどの鉗子の操作および内視鏡カメラの操作を医療支援ロボットを使って行う一種の腹腔鏡手術です。2016年12月に当院に導入されたのは、最新の機種です(da Vinci Xi)。ロボット手術は、腹腔鏡手術と同じで、低侵襲手術に位置づけられている患者さんに優しい手術です。日本でも急速に普及していますが、2020年1月現在、鹿児島県内で婦人科疾患に対するロボット手術を行っているのは当科のみで、すでに80例以上に対して施行しています。

ロボット手術と他の手術の違い

手術法といえばかつては、古い歴史のある開腹手術か、腹腔鏡かの二択でした。腹腔鏡手術は、1cm程度の小さな傷から医師の操作する鉗子と呼ばれる手術器具を患者の腹部に差し込んで行う手術です。鉗子の操作に制限があるため、習熟するのが難しく、悪性腫瘍など難易度の高い手術を行うのは難しいという欠点があります。しかし、良性疾患をメインとしていた腹腔鏡手術も、患者さんの体への負担が少ないためその領域が徐々に広がり、最近では早期の悪性疾患でも行われるようになってきました。ロボット手術の一番の違いは鉗子の動きです。腹腔鏡の鉗子操作に習熟していなくても、高度な開腹手術ができる医師であれば、ロボットの制御する鉗子を開腹手術と同じように操作できるのがその特徴です。開腹手術でも難易度が高いとされる、肥満患者では、さらにその高い潜在能力が発揮されるといわれています。

ロボット手術の適応

患者さんに優しい手術であることから、米国の子宮摘出術の8割以上でロボットが使われていますが、日本ではまだそれほど普及していません。2018年4月に婦人科疾患に対するロボット手術が保険適応になりました。保険でロボット手術ができるのは以下の二つの場合です。ひとつは、早期子宮体癌に対する悪性腫瘍手術であり、もう一つは子宮筋腫などの良性の子宮疾患に対する子宮摘出術です。子宮体癌でロボット手術の適応になるのは、およそ半分の患者さんです。すなわち、組織型(癌の種類)が高分化型の類内膜癌で、推定される進行期(癌の進み具合)がTA期と考えられる場合です。
当科では、上記の保険診療としてだけでなく、以下のような患者さんに対してもロボット手術を行っています。詳細に関しては、お問い合わせください。

「当院で受けれる保険適用外術式」
1、ロボット支援子宮体がん手術(高リスク症例に対する私費手術)
2、ロボット支援広汎子宮頸部摘出術(子宮頸がんに対する妊孕性温存の私費手術)

子宮頸癌、子宮体癌に対するセンチネルリンパ節理論に基づいた縮小手術

#1 術中のリンパ節転移診断精度と術後の生活の質(QOL)向上を目指した臨床試験

■はじめに

 早期の子宮頸癌、子宮体癌に対する手術は、子宮の摘出と骨盤リンパ節の徹底的摘出(郭清)が行われてきましたが、早期の癌では骨盤リンパ節転移の頻度は少ないと報告されています。また、骨盤リンパ節郭清に起因する下肢リンパ浮腫をきたした場合、整容上の苦しみとともに日常生活での行動は大きく制限されます。そのため早期の子宮頸癌、子宮体癌手術においてはリンパ節摘出に関する縮小手術が期待されています。

■センチネルリンパ節理論

 センチネルリンパ節(見張りリンパ節)とは原発巣の腫瘍からリンパ流が最初に到達するため転移が最初に生じるリンパ節であり、ここに転移を認めなければその他のリンパ節にも転移はないと考えられます(センチネルリンパ節理論)。子宮頸癌、子宮体癌でもリンパ行性転移は必ずセンチネル節から始まり、周囲の骨盤リンパ節へと転移していくと考えられます(図1)。よって、術中にセンチネルリンパ節に転移がないとわかれば他のリンパ節を摘出する必要がなく、術後のQOL向上につながりますし、病理診断をセンチネルリンパ節にこの理論は乳癌、悪性黒色腫でその妥当性が証明されており、実際にリンパ節郭清の省略という縮小手術が保険適応のもと広く行われています。子宮頸癌、子宮体癌の保険適応はまだですが、海外ではすでに広く普及しており、国内でも臨床試験が行われています。当科でも倫理委員会の承認を得て、センチネルリンパ節理論に基づいた縮小手術を行っています。

■センチネルリンパ節理論に基づいた縮小手術の実際

 手術前日にRI検査室にて子宮頸部粘膜下に少量のアイソトープ(蛍光色素を併用することもあります)を局注し、センチネルリンパ節(1次リンパ節)とそれ以降に流れ込むリンパ節(2次リンパ節以降)の区別目的にリンフォシンチグラフィーを撮像します(図2)。手術当日、検出器にてセンチネルリンパ節を同定・摘出し、センチネルリンパ節は2mm間隔にスライスして病理組織診を術中に行います。転移陰性であれば骨盤リンパ節郭清は省略しますが、センチネルリンパ節に転移を認めた場合やセンチネルリンパ節が同定できなかった場合は、通常通りのリンパ節郭清を行います。リンパ節郭清を省略できた場合は、術後の下肢リンパ浮腫のみならず、リンパ嚢胞やリンパ管炎などの術後合併症もほとんど生じていません。

子宮頸癌に対する広汎子宮頸部摘出術

将来の妊娠を可能とする浸潤子宮頸癌患者に対する腹式広汎子宮頸部摘出術

 癌に侵された臓器は、臓器ごと摘出するのが癌治療の原則という考えがあります。子宮癌になってしまうと、子宮を摘出する事となり、妊娠・出産をあきらめざるをえないという考えが一般的です。円錐切除と呼ばれる経腟的な子宮の部分的切除法があり、これでは将来の妊娠も可能ですが、ごく初期の癌にしか対応できません。子宮頸癌は若年者において増加しており、晩婚化・晩産化が進行する中、大きな問題となっています。
我々は、初期浸潤癌において妊娠に絶対必要な子宮体部と卵巣を温存したまま、子宮頸部を周囲組織と一緒に摘出する、腹式広汎子宮頸部摘出術を臨床試験として行っています。頸部摘出後に子宮体部と腟を繋ぐ事で将来の妊娠が可能となり、癌患者の夢も繋ぐ手術だと考えています。2014年より開始し、これまでに多数の手術を行ってきました。

 別項で述べたセンチネルリンパ節術中生検と広汎子宮頸部摘出術を組み合わせることで、より再発の少ない手術の開発に努めています。

遺伝性乳癌卵巣癌症候群に対するリスク低減卵管卵巣切除術について

 卵巣癌及び乳癌においては、その一部が家族性に発症することが知られており、遺伝性乳癌卵巣癌症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer:HBOC)と言われます。BRCA遺伝子の病的バリアント(変異)であり、女優のアンジェリーナジョリーが予防的に両側乳腺及び卵巣・卵管の摘出を公表したことで話題になりました。BRCA1/2遺伝子はDNA損傷の修復に関わるがん抑制遺伝子であり、一般に両親のどちらか一方から受け継がれます。子供が母親か父親かどちらか一方の遺伝形質を受け継ぐ確率は50%になります。年齢とともに発症者数は増加しますが、発症しない人もいます。乳癌ではいずれも20歳代から発症しますが、卵巣癌においてはBRCA1が30歳代、BRCA2は40歳代から発症リスクが上昇します。70歳までに罹患するリスクは乳癌でBRCA1:75%、BRCA2:76%、卵巣癌でBRCA1:39%、BRCA2:11-22%となります。
卵巣癌においては、子宮頸癌検診の様な有効な検診方法は確立しておりません。そのため現在では予防的に摘出するリスク低減卵管卵巣切除術(risk reducing salpingo-oophorectomy:RRSO)が発症を最も抑える方法として認知されています。RRSO 後の卵巣癌または卵管癌の発症リスクは79% 減少することが示されています。各種ガイドラインにおいても、出産を終えた35歳以上でRRSOが推奨されています。
当院においては、以前より院内の医療倫理審査を経て自費診療でのRRSOを開始していましたが、2020年4月よりHBOCに対するRRSO及びリスク低減乳房切除術(RRM)が保険適応となりました。
当院におけるRRSOについてですが、腹腔鏡(鏡視下手術)を用いて行います。鏡視下手術の詳細については当院ホームページをご覧ください。実際の大まかな手技としては、腹腔内及び骨盤内の十分な観察を行い腹水を採取します。卵巣・卵管から離れた位置で周囲の腹膜を含めて切除します(図1)。場合によっては術中迅速病理診断へ提出し生検や手技を追加します。回収後に決められたプロトコルに従い病理診断を行います。
リスク低減手術に向けた診療の流れを図2に示します。HBOCの診断となるBRCA遺伝学的検査は、卵巣癌や乳癌を発症した患者に限らず、その家族でHBOCが疑われる方も保険で検査が可能です。最近のHBOC診断に至る契機として最も多いのは卵巣癌や乳癌患者におけるPARP阻害薬の効果があるかどうかを判定するコンパニオン診断としてのBRCA遺伝子検査です。そこから、血縁者を調査し複数人が診断に至っています。この、コンパニオン診断を含め今後は様々な理由により家族性腫瘍の診断を行う機会が増えると予想されています。しかしながら、HBOC診断は本人のみの問題では無く、さらには現時点では治療の必要のない人から臓器を切除する訳であり倫理的側面を含みます。したがって、診断後は当院の遺伝カウンセリング室でカウンセリングを受けて頂きます。また、ご希望があれば診断前にカウンセリングを受けることも可能です。さらには、手術実施前に臨床遺伝や腫瘍に係る専門的な医師によるカンファレンスを実施し、治療方針の検討を行います。カンファレンスによる検討内容を踏まえ、手術の目的や利益不利益について当該患者に説明を行った上で自らの意思で実施を選択して頂くのが原則です。
しかしながら、RRSOを行った場合も腹膜癌のリスクが残るために定期検査(婦人科診察、超音波検査、CA125測定)は必要です。HBOC患者における医学管理を図3に示します。HBOCの家系においては、リスク低減手術以外にも若年からの乳癌の検診や化学的予防など医学的管理が薦められ、乳癌・卵巣癌以外にも二つ目の原発性乳癌、前立腺癌、膵癌などのリスク管理を行う必要があります。その上では多職種連携が極めて重要です。当院ではがん関連連携拠点病院・腫瘍センターの枠組みの中で診療科横断的に診療を行っています。


図1. (右) RRSOにおいて、臍からカメラを挿入し腹腔内を観察している。肉眼的には異常所見は認めない。
左)右卵巣・卵管の切除


図2. リスク低減手術に向けた診療の流れ


図3. HBOC患者における医学管理

放射線治療

子宮頸癌に対する根治的な治療として行う場合、各種癌の術後療法として行う場合、再発癌に対して行う場合などがあります。外照射だけでなく、腔内照射も行っています。

化学療法

卵巣癌の治療として行う場合、絨毛性疾患の治療として行う場合、各種癌の後療法として行う場合、再発癌に対して行う場合などがあります。様々な方法(レジメン)がありますが、ほとんどの場合は点滴治療です。